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10年前の国際女性デーに、私が「ふつうのアメリカ人」から受けた12の質問

治部れんげ東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授、ジャーナリスト
日本と海外を比較すると見えてくることがあります(写真:アフロ)

今日、3月8日は国際女性デーです。最近、この国際女性デーのシンボルであるミモザの花と共に、良く知られるようになりました。

私が国際女性デーの存在を知ったのは、ちょっと遅くて、10年前のことでした。

当時、私は、フルブライト奨学金をもらってアメリカに留学していました。ミシガン大学の女性教育センターに客員研究員として所属し、アメリカの共働き夫婦の家事育児分担について調べていました。研究論文を読んだり、インタビューをしたりしていたら、ペンシルバニア州にあるフランクリン&マーシャル・カレッジから招待状が届いたのです。

「かわいそう話」はしたくなかった

「国際女性デーにイベントを開くので、日本女性について基調講演をしてほしい。」

招待を光栄に思いつつ「もしかしたら、また、可哀そうな日本女性話を求められるのかも」と少し気が重くなりました。実は、それまで何度かアメリカで「日本女性」について話をしてきて、求められるのが「可哀そうな、耐える日本女性像」ばかりであることに、ややうんざりしていたからです。

当時、私は、東京で約10年の記者経験があり、日本企業で働く元気な女性たちをたくさん見ていました。彼女たちの活躍の様子や、育児と仕事のバランスにおける葛藤、そして、まだ当時は珍しかった、育休を取る男性を含めた先進事例をよく取材していました。

現代の日本女性を取り巻くリアルを伝えたい、という私の意図と、「国際×女性」企画担当者たちの意識には、ずれがありました。ある時は、日本女性が困難な状況にありつつ「いかにして道を切り開いているか」を話したら「そんなはずはない」「あなたは男社会に同化しろと言うのか」という反発を受けました。

日本女性のリアルは全然知られていない

私の説明が不十分だったこともあると思いますが、多くの人は、日本女性について、バイアスされた情報しか持っていませんでした。英語で読める国際比較統計か、英語メディアで紹介される「保守的な日本と抑圧される女性」に関する記事です。

偏見を持たれていたのは日本女性だけではありません。アジアから来た他の留学生や研究者と出席した会議では、日本だけでなく「アジア女性=大変、可哀そう」の枠組みで話すことを求められて、それは、違うなあ、と思いました。この時は、台湾出身の社会学者が上手に質問をしてディスカッションを誘導し、アジア女性=可哀そうのイメージはだいぶ払拭されました。

マクロデータで見たら状況はひどい

ただ、実際、マクロデータで見た日本女性の置かれた状況は「ひどい」と思います。ちょうどこの頃、発表されるようになった「ジェンダーギャップ指数」では、いつも100位台。2016年には111位まで落ちてしまいました。理由は経済や政治分野での男女格差が大きいためです。取り分け、企業で管理職に就いたり、政治家になる女性が少なかったりすることが、低いランキングに影響しています。

これ自体は、先進国として「恥ずかしいこと」にほかならない、と私は思います。人口の半分を占める女性が、その能力を生かせない状況は、おかしい。では、こうしたデータをもって「日本女性は可哀そうで、虐げられている」と結論づけていいのでしょうか。

私は、それも違うと思っています。10年前も今も、国際比較でマクロデータを見ると、日本女性の置かれた状況はよろしくない。一方、ミクロで見れば状況を変えるために、前向きに努力し、闘っている女性たちがたくさんいます。マクロデータだけを見て「日本女性は可哀そう」と決めつける論調は、こういう女性たち個人の活動や努力を否定する失礼な発想です。

ミクロな変化を知る人もいた

幸い、10年前に国際女性デーのイベントに私を招待してくれた方は、日本女性についてステレオタイプな考えを持っていませんでした。彼女が私に提示したテーマは「日本女性の地位の変化」。日本女性と交流の機会がしばしばあり、10年前と最近で、若い女性の行動が大きく変わったことに驚き「日本女性に何が起きているのか」知りたくなったのだそうです。このように、日本女性と直に接した経験を持つ人は、問題の全体像や個人の課題と達成の両方に関心を持ってくれることが多かったように思います。

ちょうど10年前、アメリカのカレッジで行った講演ポスター。テーマは「日本女性の地位変化」
ちょうど10年前、アメリカのカレッジで行った講演ポスター。テーマは「日本女性の地位変化」

講演は2007年3月5日。約70人近く集まった大学関係者、地域の人に、統計から見た日本のチャレンジ(女性管理職はまだまだ少ない、男性の家事育児時間は海外と比べて短い)を話した後、点で見た変化を伝えました。例えば、アメリカのメディアに「注目の女性」として選ばれた日本のビジネスウーマン。県知事になった女性たちのこと。日本女性を数字だけでなく「顔の見える個人」と認識してもらうと、見方が変わるのでは、と思ったからです。

ふつうのアメリカ人が日本女性について知りたいこと

講演後は質問がたくさん出てきました。以下に、主なものをまとめます。10年前の国際女性デーに受けた質問ですが、今の日本に照らして考えても、大事なポイントが多いと思います。私自身の回答は、あえて記載しませんが、読み返すと今の考えとあまり変わっていないと思います。みなさんは、どんな風に答えますか? 

Q1「男性と女性の賃金の差はどのくらいか」

Q2「もし、あなたが政策決定者になったら何をするか」

Q3「女性が社会進出することを男性はどう考えているのか」

Q4「年齢が上の男性は女性の社会進出をどう見ているか」

Q5「日本ではどんな育児施設が使われているのか」

Q6「女性の進出が進んだら、かつて母親が果たしてきた役割は誰が果たすのか」

Q7「男性が育児休暇を取った場合、収入減になるから難しいのでは」

Q8「ハーバード卒の雅子妃について、日本の女性はどう思っているのか」

Q9「大学における男女平等の状況はどうか」

Q10「ランキング上位校でも女子学生は増えているのか」

Q11「同性愛についてはどんな論議があるか」

Q12「あなた自身は管理職になりたいか」

違う国の人は、違う質問をするでしょうから、身近に海外のお友達がいる方は、こうしたテーマについて話し合ってみると面白いと思います。

大事なのは、誰かが話す「日本の問題」や「日本の素晴らしさ」をそのまま繰り返すことではありません。''日本女性の置かれた状況について、自分自身で考えて言葉にすることです。本当の変化は、ひとりひとりが望んだ時に起きる'''からです。

東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授、ジャーナリスト

1997年一橋大学法学部卒業後、日経BP社で16年間、経済誌記者。2006年~07年ミシガン大学フルブライト客員研究員。2014年からフリージャーナリスト。2018年一橋大学大学院経営学修士。2021年4月より現職。内閣府男女共同参画計画実行・監視専門調査会委員、国際女性会議WAW!国内アドバイザー、東京都男女平等参画審議会委員、豊島区男女共同参画推進会議会長など男女平等関係の公職多数。著書に『稼ぐ妻 育てる夫』(勁草書房)、『炎上しない企業情報発信』(日本経済新聞出版)、『「男女格差後進国」の衝撃』(小学館新書)、『ジェンダーで見るヒットドラマ』(光文社新書)などがある。

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