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米サンフランシスコ市、コロナ感染者ゼロでも「非常事態宣言」ハーバード大教授「世界の70%が感染する」

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
ヨーロッパや中東でも感染が拡大しており、状況はパンデミックに近い。(写真:ロイター/アフロ)

 米サンフランシスコ市が、米国時間25日、新型コロナウイルスの感染拡大に備えて「非常事態宣言」を発令した。

 明記しておきたいのは、同市に在住する人々の間からは、感染者がまだ1人も確認されていないということ。

 しかし、それでも「非常事態宣言」を出したのだ。この意味は大きい。

 サンフランシスコ市長のロンドン・ブリード氏は、発令に当たり、記者会見でこう訴えた。

「より多くのリソースを割り当てて、(感染拡大に対して)準備する必要がある。発令したのは準備が重要だからです。非常事態宣言をすることで、準備し、地域の安全を優先するのです」

 この危機管理能力の高さ、対応の迅速さを、対応の遅さや判断の誤りが世界の批判を浴びている日本政府はどう受け止めるだろうか?

最大、世界の70%の人々が感染

 現在、アメリカには、53人の感染者がいる。CDC(米疾病対策センター)は米国時間25日、「アメリカでの感染爆発は避けられない」と警鐘を鳴らした。

「もはや、感染爆発が起きたらという問題ではなく、いつ感染爆発が起き、どれくらいの人が重症になるかが問題なのです」(CDC国立予防接種・呼吸器疾患センター、ナンシー・メッソニエ所長)

 米誌「アトランティック」の「あなたは感染するだろう」と題された記事の中では、ハーバード大学のマーク・リプシッチ教授が衝撃的な予測をした。

「来年までに、世界の40〜70%の人々が、新型コロナウイルスに感染するだろう」

 最大70%。

 恐ろしい数字だが、教授は、新型肺炎が、通常のインフルエンザのようにありふれた疾病になることを予測し、この数字を出している。

 実際、新型肺炎の場合、重症になる人々の割合が約2割で、軽症者が大半であるという実態がある。

 また、感染していても無症状の人々も少なくない。ダイヤモンド・プリンセス号で感染した乗客の中にも、無症状な者が多数いる。

 怖いのは、軽症者は治療を受けないかもしれないし、無症状者は感染を自覚していないため、ウイルスを伝染させていく可能性があるということだ。実際、中国ではそんな感染例も起きたと推測されている。JAMAに掲載された論文によると、武漢市在住の無症状の20歳の女性が、安陽市を訪ねた際に会った5人の人々にウイルスを感染させて発症させたと考えられる例がある。

 そして、軽症者や無症状者による感染が起きると、新型肺炎は通常のインフルエンザのように、感染経路を辿ることが困難な、多くの人々がかかる疾病になるとリプシッチ教授は指摘している。

封じ込めは困難に

 同様の見方をしているのは、リプシッチ教授だけではない。多くの感染病学者が、新型肺炎は、新たな季節的疾病になるという見方をしているという。今、「風邪やインフルエンザの季節」という表現がよく使われているが、それが「風邪やインフルエンザや新型肺炎の季節」と表現されるようになるというのだ。

 新型肺炎がありふれた疾病となることから、「おそらく、最終的には封じ込められない結果になると思う」と同教授は予測している。

 SARSやMERS、鳥インフルエンザなどが部分的だが封じ込められたのは、それらが、重症者を生み出し、致死率も高かったからだという。

 SARSに感染したら外出はできなくなる。しかし、新型肺炎は無症状だったり、軽症だったりするケースが多いので、人は感染していると気づかずに普通の生活を送り、他の人に感染させる可能性が高くなる。そのため、通常のインフルエンザウイルスのように、ウイルスの感染経路を辿ったり、予防したりすることが難しくなり、封じ込めが困難になるというのである。

市中感染の実態把握を重視

 それでも、アメリカは、軽症者や無症状者が市中に潜伏している可能性を考え、方針転換をした。

 当初、アメリカの医師たちは、中国渡航歴がなかったり、感染者と接触歴がない人に対しては新型コロナウイルス検査は行わないようアドバイスされていた。

 しかし、CDCは、2月半ば、アメリカの5つの都市(ロサンゼルス、サンフランシスコ、シアトル、シカゴ、ニューヨーク)で新型コロナウイルスのスクリーニング検査を行うと発表。実際、市中でどれだけの感染例があるか実態を把握するためだ。通常のインフルエンザの検査で陰性になった人々の中にも、新型コロナウイルスに感染している人が潜んでいる可能性もあると考え、検査規模を拡大しようとしているのである。

 それでも、米政治ニュースサイト「ポリティコ」によると、最初に配布された検査キットの試薬の1つに不備があったため、検査が円滑に進んでいない状況だ。そのため、前アメリカ食品医薬品局(FDA)長官のスコット・ゴットリーブ氏は「アメリカ政府は拡散している感染例を突き止めることができず、大きな感染爆発が起きるかもしれない」と危惧している。

日本政府の思惑

 感染爆発を防ぐために、市中での検査規模を拡大しようとしているアメリカ。

 それに対して、日本は感染拡大が進んでいるにもかかわらず、検査を受けるにはクリアしなければならない条件がある。肺炎の症状を見せている人でさえ、なぜか、「検査拒否」される状況もあると聞く。

 また、日本では、毎日行われている検査件数も、なぜか、非常に少ないという。

 先日、厚労省は1日3800件を超える検査体制があると豪語したが、現実的には、“検査の敷居”は高いのだ。

 一方、隣国韓国では毎日7500件もの検査が行われている。当然、感染者数も日本よりはるかに多い。

 日本も、検査件数を増やせば、韓国のように感染者数が増えるのは必至であることを考えると、そこには、感染者数を増やしたくないという日本政府の思惑が見え隠れする。

 感染者数が増えれば、東京オリンピック開催が不可能になり、日本経済もリセッションに突入することが、日本政府の目には見えているからだろうか?

 しかし、国民の健康や命を犠牲にしてまでして開催する東京オリンピックに意味はない。世界も、そんなオリンピックに喝采を送ることはないだろう。

 いったいどれだけの感染者が市中にいるのか?

 今は少しでも多くの検査をして感染の実態を把握し、重症者の治療は最優先しつつも、時間の経過とともに重症に発展する可能性もある軽症者にも早期に対処すべき時ではないか。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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