Yahoo!ニュース

「新型コロナウイルスは容易に感染する」米専門家が警告 ウイルスの宿主はフルーツコウモリか?

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
「春節」による人々の大移動で、感染拡大が懸念される新型コロナウイルス。(写真:ロイター/アフロ)

 世界を大きな不安に陥れている新型コロナウイルス(2019-nCoV)。最新の発表によると、患者数は830人、死者数は25人に達し、増加の一途を辿っている(米国西海岸時間1月23日17時時点)。欧米では「ミステリー・ウイルス」とも表現されているこのウイルスはアメリカにも上陸、人々の間で懸念が広がっている。

海鮮市場には行かず

 アメリカで感染が確認されたのは、1月15日に、武漢からアメリカに帰国したワシントン州シアトル在住の30代の男性。ちなみに、1月15日は、アメリカが3つの国際空港(ニューヨークのJFケネディ空港、ロサンゼルス国際空港、サンフランシスコ国際空港)で武漢から到着した乗客のスクリーニング検査を開始する2日前に当たる。(その後、シカゴ・オヘア国際空港やアトランタ国際空港でもスクリーニング検査が開始された)

 この男性は、中国からアメリカに戻る道中は症状が出ていなかったものの、1月19日に肺炎を発症した。そして、訪ねたばかりの中国で新型コロナウイルスによる感染者が出ていることを知り、病院で受診したという。つまり、この男性は中国滞在中は、新型コロナウイルスの情報に触れていなかったことになる。

 男性の旅行歴や症状から、病院は新型コロナウイルス感染を疑い、臨床サンプルを採取、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)に送って検査したところ、新型コロナウイルス感染であることが確認された。男性は隔離されている状態だが、重症ではなく、状態も良好であることから、現在、厳重に注意する必要はなくなっているという。

 ちなみに、この男性は「武漢の海鮮市場には行かなかったし、身体の具合が悪い人とも接触しなかった」と話している。

 CDCは、男性が中国からアメリカに戻るまでどんなルートを辿り、誰と接触したか調査を進めているところだ。

 CDCが注目しているのは、新型コロナウイルスがヒトの間でどれだけの感染力があるのかということだ。

 米国時間21日に行われた記者会見で、CDC国立予防接種・呼吸器疾患センター所長のナンシー・メッソニエ氏は、

「時々刻々と出てくる新情報をトラッキングしている。このウイルスがヒトの間でどれだけ広がるものであるのかを理解する必要がある」

と話した。

 また、新型コロナウイルスがどんな症状を引き起こすものであるかも明確にはわかっていないという。

 人に感染する7つのコロナウイルスのうち、SARSとMERSは重度の肺炎や最悪の場合は死を引き起こすが、この2つのコロナウイルス以外は、風邪のような軽度の症状を見せるに留まる。ところが、新型コロナウイルスの場合は、重度の症状を示す感染者もいれば、軽度の症状ですむ感染者もいる。

 WHO(世界保健機関)によると、新型コロナウイルスの主な症状は、発熱とその後に続いて起きる呼吸困難で、レントゲン写真を撮ると両肺は肺炎の兆候を見せているという。しかし、発熱せずに死亡した感染者も現れていることを考えると、感染者の発見はより困難になる。

ウイルスは容易に感染する

 WHOは23日の会合で「緊急事態宣言」の発令を見送ったが、アメリカの専門家の間からは新型コロナウイルスの感染力の高さを懸念する声も上がっている。 

 ジョンズ・ホプキンス大学公衆衛生大学院・健康安全センターディレクターのトム・イングレスビー氏は15人もの医療従事者が感染したことについて、米ニュースサイトVOX.comで、懸念の色を見せている。

「爆発的流行(アウトブレイク)において、医療従事者が感染するのはまれです。医療従事者が感染したとしたら、それは常に警告信号となります。医療従事者が感染しないよう防護している状況の中で感染したということは、ウイルスは容易に感染する可能性があることを意味しているからです」

SARSのようになる?

 専門家たちは「爆発的流行」について様々な見方をしている。

 国際保健を研究しているウエルカム・トラストのディレクター、ジェレミー・ファーラー氏は「感染していても非常に軽度の症状であったり、無症状であったりする人々が大多数存在し、その中で死者数がわずかな場合は、この爆発的流行は軽いものかもしれない」と話している。

 一方、前述のイングレスビー氏は、このウイルスが10人に1人が亡くなったSARSのような結果をもたらすものになる可能性を危惧している。

「SARSの場合、医療施設で拡大し、患者のケアに当たった医療従事者も感染した。新型コロナウイルスは感染拡大の恐れがある非常に重大な爆発的流行になるかもしれません」

 国際保健の研究機関エコヘルス・アライアンス社長のピーター・ダスザク氏も懸念する。

「アメリカで感染者が現れたことを考えると、このウイルスはSARSのような伝染病になる変わり目にあるのではないか。感染に気づいていない人々が入国して発症したり、人々に感染させたりして、さらなる爆発的流行を引き起こす危険性がある。その場合、爆発的に流行する範囲はとてつもなく拡大します」

 香港とロンドンの研究者たちは、武漢だけで、1300から4000以上、発見されていない感染例があると示唆している。

 また、米紙ワシントン・ポストは“新型コロナウイルスの症状を示して亡くなったある65歳の女性は、中国で発表されている感染による死者数には入れられていない。この女性の家族は、病院から医療費を請求されていないが、それは、中国政府がこのウイルスに感染した人々の医療費を負担すると約束しているからだ”と中国当局が感染者数や死者数を過少申告している可能性を示唆している。ちなみに、この女性も、アメリカで感染者第1号となった男性同様、海鮮市場には足を運んでいなかった。

 発見されていない、あるいは、報告されていない感染例がいったいどれだけあるのか。

宿主はフルーツコウモリか?

 また、米NPR(アメリカ合衆国の非営利・公共のラジオネットワーク)は、新型コロナウイルスの宿主について言及している。

「新型コロナウイルスの宿主はコウモリである可能性があるが、コウモリと人間の間に未知の媒介物が存在するかもしれない。新型コロナウイルスとSARSウイルスはどちらも、フルーツコウモリに見つかるウイルス、HKU9-1が突然変異したものだ」

という「サウス・チャイナ・モーニング・ポスト」に掲載された中国人研究者のコメントを紹介しているのだ。

 ちなみに、CNNは、コウモリと人間の間の媒介物としてヘビの可能性があるという研究を紹介、「コウモリからヘビに感染した新型コロナウイルスが人へと広がり、今回の流行を引き起こした可能性が高くなった」と報じている。

 新型コロナウイルスはSARSウイルスとは遺伝子的に異なるため、当初、SARSのような伝染病は引き起こさないと考えられていたが、中国で行われた新たな研究によると、新型コロナウイルスはSARSウイルスよりは弱いものの、SARSウイルスの受容体となっている同じ酵素と結合するという。

治療法開発の初期段階

 実体がわからず、治療法や予防するためのワクチンもないため、人々に大きな不安を与えている新型コロナウイルスだが、明るい兆しもあるようだ。ワクチンや治療薬が開発の初期段階に入っているからだ。

 米NBCニュースによると、米国立衛生研究所は米国時間21日「ワクチン開発の初期段階にある」と認めたという。

 また、リジェネロンという医薬品企業も、このコロナウイルスの治療薬開発の初期段階にあるという。ちなみに同社は、昨年、エボラ出血熱の治療薬を開発して話題となった。

14日間は健康状態をモニター

 24日から始まる「春節」の大型連休で多くの中国人が旅行に出ることから、急速な感染拡大のリスクが高まっている新型コロナウイルス 。

 「ジャーナル・オブ・トラベル・メディシン」によると、2018年の1〜3月の間、武漢の人々が旅行で訪ねた都市は、バンコク、香港に次いで東京が3番目に多かった。

 武漢は今、飛行機や列車の発着が停止され、封鎖状態に置かれているものの、すでに武漢から脱出した市民も多数おり、中国の他の地域でも感染者が確認されていることから「春節」期間中の感染拡大は必至だ。

 このウイルスからどう身を守ったらいいのか? 

 CDCによると、コロナウイルスは一般的に、咳やくしゃみなどによる飛沫感染、空気感染、感染者に触れたり感染者と握手したりすることによる接触感染、そしてウイルスのついた物を触って洗手せずに口や鼻、目を触ることによって起きる感染で広がると指摘している。

 そのため、CDCは、カウンターやテーブル・トップ、ドアノブ、バスルームの什器、トイレ、電話、キーボード、タブレッド、ベッドのサイドテーブルなど人が頻繁に触る物を清潔に保ち、入念な手洗いをし、咳やくしゃみをする時は口を覆うことなどを勧めている。

 また、感染者はマスクを着用して周囲の人々に感染させないようにすることはもちろん、感染者がマスクを着用しない場合は周囲の人々が着用することも勧めている。

 加えて、新型コロナウイルスの感染者と接触したことが懸念される場合、14日間は自分の健康状態をモニターすることが重要だという。その時に注意したい症状は、発熱、咳、息切れ、呼吸困難、体の痛み、のどの痛み、吐き気、下痢などだ。

 実体がわからない「ミステリー・ウイルス」の一刻も早い解明が待たれるところだ。

(関連記事)

新型肺炎「武漢だけで、2月4日までに最大35万人超が感染」英米研究チーム

(参考)

A SARS-like virus is spreading quickly. Here’s what you need to know.

新型コロナウイルスに関するCDCのサマリー

What is the new coronavirus?

Newly Identified Coronavirus Has Killed 17 People, Chinese Health Officials Say

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

飯塚真紀子の最近の記事