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銃大国アメリカ 4人以上が撃たれる銃乱射事件が1日ほぼ1件発生 バージニア・ビーチ銃乱射事件

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
事件が起きたバージニア・ビーチの市庁舎。写真:people.com

 また、銃による悲劇が起きてしまった。

 バージニア州バージニア・ビーチにある市庁舎で銃乱射事件が発生、12人が死亡、4人が負傷した。

 銃を乱射した男は市の公共事業部門に長年勤務していたエンジニア(40歳)。午後4時過ぎ、市庁舎に入り、無差別に発砲した。犠牲者は市庁舎の3フロアに渡って発見された。男は駆けつけた警官4人と長い銃撃戦をした末、警官に撃たれて死亡。市庁舎内は戦場のようだったという。

 男は45口径のハンドガンやライフルに加え、拡張マガジンや消音装置まで所持していた。まるで戦闘体制にでも入るかのような重装備だったことから、銃乱射を入念に計画していたと思われる。また、男は以前、国家陸上警備隊に個人的に所属していたというから、銃を使った戦闘作戦の訓練もされていた可能性もあるという。事件の明確な動機は明らかになっていないが、男が何かに不満を抱いていたという報道もある。

 川崎で起きた痛ましい無差別殺傷事件はアメリカでも報じられた。その直後に起きた銃乱射事件。罪のない人々を無差別に殺傷する犯人には怒りを禁じ得ない。

1日ほぼ1件の乱射事件

 それにしても、アメリカでは、どれだけ銃乱射事件が発生しているのか?

 アメリカの銃乱射事件は、1999年4月20日に起きたコロンバイン高校銃乱射事件を境に、世界的に報道されるようになった。

 記憶に新しい銃乱射事件をあげると、2016年6月にフロリダ州のナイトクラブで起きた銃乱射事件(49人が死亡、53人が負傷)や2017年10月にラスベガスで起きた銃乱射事件(59人が死亡、527人が負傷)がある。

 2018年は特に多くの銃乱射事件が発生した。

・2018年1月 ケンタッキー州高校銃乱射事件 2人死亡、14人負傷

・2018年2月 フロリダ州マジョリー・ストーンマン・ダグラス高校銃乱射事件17人死亡、17人負傷。

・2018年5月 テキサス州高校銃乱射事件10人死亡

・2018年10月 ペンシルバニア州シナゴーグ銃乱射事件 11人死亡、6人負傷

・2018年11月 カリフォルニア州サウザンドオークス銃乱射事件 12人死亡

 今回、銃乱射事件が起きたバージニア州でも、2007年4月、バージニア工科大学で、同大学の学生だった在米韓国人のチョ・スンヒ(当時23)が校舎や学生寮に侵入し、学生や教授ら32人を銃撃する事件が起きていた。

 これらは世界的に注目された事件だが、大きく報道されていない銃乱射事件がアメリカでは多数起きている。

 銃暴力アーカイブのデータによると、銃乱射事件を4人以上が撃たれる(銃乱射犯を除く。また、撃たれた被害者は必ずしも死亡したとは限らない)事件と定義した場合、2012年12月に起きたサンディー・フック小学校銃乱射事件以降、銃乱射事件は2000件以上発生、約2300人が死亡し、約8400人が負傷している。2015年以降で見た場合、1日ほぼ1件起きている計算になるという。

 また、今年アメリカで起きた銃乱射事件は今回のバージニア・ビーチの事件で150件となった。今年も、1日ほぼ1件は銃乱射事件が起きている状況だ。

銃による自殺や殺人が圧倒的に多い

 CDC(アメリカ疾病管理予防センター)のデータによると、2016年の銃による総死亡者数は約39000人で、うち、銃乱射事件における死亡者数は451人。銃による総死亡者数の約1.2%ではあるものの、1日ほぼ1件、アメリカのどこかで、4人以上が撃たれる銃乱射事件が起きている状況は異常としか言えない。

 ちなみに、同年は、銃で自殺した人の数が約23000人、銃による殺人で亡くなった人の数が約14000人と、銃乱射事件で亡くなった人々の数をはるかに凌いでいるが、銃が手に届くところにあるという環境がこれだけの死亡者数を生み出しているのだろう。

 今回また銃乱射事件が起き、専門家からは「銃があるアメリカ特有の事件だ」という声が上がっている。「子供の頃からビデオゲームで銃撃に慣れ親しんでいるため、銃撃することに何も感じなくなっているのではないか」という声もある。また、銃が短時間に多数の人々を殺傷する能力がある大量破壊兵器であるという問題も指摘されている。

 銃規制は、2020年の大統領選でも大きな議論の対象となる。

 3月にクライストチャーチのモスクで起きた銃乱射事件後、ニュージーランドの議会はすぐに銃規制強化法案を承認したが、アメリカではトランプ氏が支援する全米ライフル協会という向かい風が強く、銃乱射事件が何度起きても銃規制はなかなか前に進まない。アメリカの民主党大統領候補たちが訴えている「銃購入者全員の身元調査の徹底化」も果たしていつ実現するのか。銃規制の道のりは遠い。

参考記事:20 years after Columbine, America sees roughly one mass shooting a day

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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