Yahoo!ニュース

高齢おひとりさま200万人が貧困 低年金でパート辞められず

飯島裕子ノンフィクションライター
イメージ写真(写真:アフロ)

見えにくい高齢単身女性の貧困

 敬老の日。お年寄りの中には、子供や孫とにぎやかに過ごした人、自宅で一人静かに過ごした人、街の片隅で働きながら過ごした人もいるかもしれない。果たして、今、余生を悠々自適に過ごせるお年寄りはどれくらいいるのだろう。

 65歳以上がいる世帯(全世帯の47%)のうち、夫婦のみ世帯が34%、ひとり暮らし世帯が26%であり、高齢者の4人に1人がひとり暮らしということになる。また高齢者の貧困率は高く、とりわけ65歳以上の高齢単身女性の貧困率は50%を超えており、母子世帯に次いで高い比率となっている(表1)。

(表1)内閣府男女参画室『男女共同参画白書』より
(表1)内閣府男女参画室『男女共同参画白書』より

 高齢でひとり暮らしをしているのは、男性約190万人、女性約400万人。すなわち約200万人の高齢おひとりさま女性が貧困状態ということになる。高齢おひとりさま女性とは、夫と死別した人、独身で通した人、離婚経験がある人などだが、彼女たちの貧困は今に始まったことではない。少ない年金でつましく生活している人が多いためか、その苦境が表に出ることはほとんどなかった。

5割の女性が年金月額10万円未満

 そこでシニアシングル当事者が実施したアンケート調査(わくわくシニアシングルズ2016年実施、50歳以上の単身女性530人が回答)から現実を見ていくことにする。まず驚くのが年金受給額の少なさだ。年金受給者(145人)のうち、「月額5~10万円未満」が40%と最も多く、「月額5万円未満」も8.3%いる。「月額15万円以上」は22.8%にとどまっている(表2)。

(表2)
(表2)

 また預貯金額は「200万円未満」が34.3%である一方、「1000万円以上」が34.2%と二極化している。就労率は65歳以上で51.4%。その大半が非正規雇用やフリーランスであった。国民生活基礎調査による65歳以上の就労率は男性が35.3%、女性が17.7%と比較しても、高齢おひとりさまの就労率は非常に高い。「いつまで働くか?」という質問には「働ける限りはいつまでも」と答えた人が68.8%に上った。ちなみに内閣府の高齢者に対する意識調査では「働ける限りはいつまでも」と答えたのは28.9%であった。

 こうした結果から見えてくるのは、低年金を少しでもカバーするため、体が続く限りは働かざるを得ないという現実である。

 アンケートに協力した71歳のAさんは、シングルマザーとして子供を育てながら働き、年金を払い続けてきたが、現在受け取れる年金額は介護保険料等を引かれると10万円程度だ。足らない分を補うため、今も週4日派遣で働き、副業としてアルバイトもしている。42年間年金に加入(うち35年は厚生年金)したが、非正規社員として働いた期間が長く、収入が低かったことが現在の年金に反映されてしまっている。男女による賃金差がある上、低賃金の非正規雇用だったことが影響しているのだ。

 シングル女性が働いて年金を払い続けても、第三号被保険者として保険料を免除されている専業主婦よりも年金額が低くなる場合もある。不条理だが現在の社会保険制度が標準モデル世帯(サラリーマンと専業主婦)をもとにしている限り変わらない。

若い世代も他人事ではない

 Aさんのように子どもが巣立った後のシングルマザーが苦境に立たされる場合も少なくない。子どもが18歳までの間は児童扶養手当などを受けることができるのだが、それ以降は一人でやっていくしかない。「子どもに手がかからなくなったのだから働けばいい」と思うかもしれないが、すでに大半のシングルマザーは働いている。しかもその多くがパートなどの非正規雇用である。中高年女性向けの正規雇用の求人は非常に少なく、パートで働く時間を多少増やしても収入が大きくアップするとは考えにくい。

 調査を実施したわくわくシニアシングルズ代表の大矢さよ子さんは次のように言う。 

「高齢期に貧困に陥る最大の要因は現役時代の不安定雇用による低賃金にあります。以前に比べ、若者の非正規雇用率が高く、貧困が広がっています。私たちシニア世代が抱える課題は若い世代の先の姿でもあります」

 ”女性活躍”に続いて、定年延長など、”高齢者の活躍”が取り沙汰されている。しかし年金では暮らせないため、体に鞭打って働かざるを得ない高齢者や少ない年金で将来に不安を抱えている高齢者がいることを忘れてはならない。

※調査を実施したわくわくシニアシングルズでは、年金や成年後見人制度などについて学ぶ講座を企画している。詳細は下記の通り。

■9月28日(土)「少ない年金 どうする老後」大矢さよ子(社会保険労務士、わくわくシニアシングルズ代表)

「高齢者と生活保護」和久井みちる(ケアマネージャー)

■11月23日(土)「どう使う? 成年後見人制度」松本政雄(司法書士)

いずれも13時半〜。会場は主婦会館プラザエフ(四ツ谷駅前)。要申込(wakusenior@yahoo.co.jp)。詳しくはhttps://www.facebook.com/wakuwakuseniorsingles/

画像

 

参考文献 大矢さよ子『シニア・高齢シングル女性の貧困問題』(2019)『女性労働問題研究』すいれん舎

大矢さよ子、湯澤直美編『シニアシングルズーー女たちの知恵と縁』(2018)大月書店

ノンフィクションライター

東京都生まれ。大学卒業後、専門紙記者として5年間勤務。雑誌編集を経てフリーランスに。人物インタビュー、ルポルタージュを中心に『ビッグイシュー』等で取材、執筆を行っているほか、大学講師を務めている。著書に『ルポ貧困女子』(岩波新書)、『ルポ若者ホームレス』(ちくま新書)、インタビュー集に『99人の小さな転機のつくり方』(大和書房)がある。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。

飯島裕子の最近の記事