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朝ごはんで離婚⁈実は多いきっかけが「食事への不満」【離婚弁護士がリアルを解説】

後藤千絵フェリーチェ法律事務所 弁護士
(写真:アフロ)

1 はじめに

「そんなことから離婚に発展するの……!?そしてそれが意外と多いなんて……!?」

写真:イメージマート

私は兵庫県西宮市で家事事件を中心に扱うフェリーチェ法律事務所を経営している弁護士ですが、夏休みや春休み、ゴールデンウイークや年末年始などの長期休みの前後は離婚相談が増える傾向にあります。

例えば…

今までずっと離婚を考えていたけれど行動に移せなかった…。でも新年度が来たことでこのままではいけない、何か行動を起こさないと!と心機一転、離婚を決意した(50代女性)

長期の休みの際に、以前からモヤモヤしていた義理の両親の実家に行った際、改めてこの人達とはやっていけないとうんざりするような出来事に遭遇した(40代男性)

実家に帰ったら居心地が良すぎて実家依存症になってしまい、帰る気がなくなった…。もう二度とワンオペ育児には戻りたくない(30代女性)

などなど。

離婚を考えるきっかけは、人によって様々です。

とは言え、何百人もの離婚相談に乗っていると、離婚を考えるきっかけとなる出来事や夫婦の行動に共通点があるのも事実。

今回は、そんな小さなことで離婚に発展するの?と思うような些細なことがきっかけで実際に離婚に至ってしまったケースをご紹介します。

思い当たることのある人は、パートナーからいきなり離婚届を突きつけられないように、気をつけた方がいいかもしれません。

2 朝ごはんで夫婦が対立

たとえば、結婚生活において言い争いが起こりやすいのが、「朝ごはん」なんです。

朝ごはんは、独身時代からの好みの違いが明確に現れるところ。

A子さん(30代主婦)の例をご紹介しましょう。(※守秘義務の関係上、内容を一部変更しております。ご了承ください)

写真:アフロ

A子さんは、根っからのパン好き。

たまたま新居がパン屋の激戦区と呼ばれるエリアだったこともあり、朝食には食パンやクロワッサン、バゲットを日替わりで並べていたそうです。

夫は、何も言わず(だからと言って美味しいとも言わず)、黙々と食べていたとか。

ところが、子供が生まれてからA子さん夫婦の結婚生活に変化が起きました。

A子さんの実家が遠方だったため、近くに住む義母に子供を預かってもらうなど、夫の実家に頼ることが多くなったそうなのです。

義母が家に手伝いに来る機会も増えました。

義母が作る朝食はいつも和食で、旅館と見間違うほどだったとか。

味噌汁は必ずだしからとったもの。

おかずは、定番の焼き魚や卵焼き以外に、旬野菜のサラダや酢の物など、義母特製の総菜が並びます。

写真:イメージマート

夫は「美味しい!」を連発し、「朝ごはんはこうでなくちゃ」と嬉しそうです。

A子さんはあからさまな夫の態度に少しムッとしましたが、結婚してから初めて夫が大の和食好きであることに気がついたそうなのです。

それなら早く言ってくれたらいいのに…と思いましたが、それ以来、朝ごはんはなるべく和食を作るようにしました。

離婚に至る決定的なケンカをしたのは、それから半年後のこと。

A子さんは仕事をしていたため、義母ほど凝った和食を作ることはできません。インスタントの味噌汁に魚を焼くだけといった食事が続きました。

そんなある日。

「いつまでインスタントの味噌汁を出すつもりだ⁉」

夫が、味噌汁を指さして激怒したのです。

写真:イメージマート

時間がなくてインスタントの味噌汁を出し続けていたのは申し訳なかったけれど、そんな怒らなくたっていいのに…。

「そこまで言うなら少しは家事を手伝ってくれてもいいんじゃない?」

思わずA子さんが言い返したところ、

「もともと、朝からパンは嫌だったんだ。ずっと我慢してた。ごはんを食べないと力がつかない気がするし、味噌汁と白いごはんこそ日本の『朝ごはん』だ。インスタントばかりで手を抜いているのに俺が気づいていなかったとでも思っているのか⁉」

と夫。

今さら何を言っているの?とカチンときたA子さんは、

「そんなにお義母さんの作ったお味噌汁がいいなら、実家に帰ればいいじゃない!あなたって結局マザコンなんじゃないの?」

と日頃から思っていたことをつい口にしてしまいました。

A子さんの言葉が引き金になり、夫は本当に実家に帰ってしまったそうです。

それから1か月度、A子さんの元に弁護士からの内容証明郵便が送られてきて、A子さんは夫が弁護士を立て離婚調停を申し立てる予定であることを知りました。

写真:イメージマート

離婚する際は、まずは協議から進めると思っている方も多いかもしれませんが、このようにいきなり裁判所に離婚調停を申し立てるケースも珍しくはありません。

当初、A子さんは子供もいたため離婚をためらっていましたが、マザコンでモラハラ気味の夫に少々うんざりしていたこともあり、離婚を決意しました。

離婚調停は無事終わり、現在は、シングルマザーとして育児と仕事に奮闘しています。

3 夫婦は所詮他人同士

写真:アフロ

結婚して初めて相手との生活習慣の違いを感じる方は、非常に多いです。

特に、従来の生活習慣の違いが顕著に現れるのが「朝ごはん」です。

晩ごはんはどの家庭でも比較的献立が変わりますが、朝ご飯はワンパターンのご家庭も少なくありません。

たとえば、洋食が苦手な人にとって、洋食のメニューがずっと続くことは苦痛です。

新婚当初は無理をして相手に合わせていたという人もいるでしょう。

一方で、最近の傾向として、自分の食生活をはじめとした生活サイクルを変えたくないという人も増えてきています。

また、毎日ではないがたまにはしっかりと食べたいとか、和食と洋食を日替わりで食べたい、スムージーや野菜サラダだけでいいと言う方もいます。

離婚相談を受けていると、「もともと、食事の好みも全然あわなかったんですよ」といった不満を口にされる方は思ったよりも沢山いらっしゃいます。

結婚生活においてなんと言っても重要なのは、相手の考えや生活習慣についてリスペクトする気持ちを忘れないことです。

写真:アフロ

自分の考えや生活習慣を相手に押し付けるのはNG。

夫婦は所詮、他人同士なのです。

食生活の好みまで完全に一致することはありません。

食生活が多様化してきた現代において、たかが朝ごはんと軽んじることなく、夫婦でしっかりとお互いの好みなどを話し合うことは想像以上に大切です。

ほんの少しの努力で、離婚を回避できることもあるのです。

フェリーチェ法律事務所 弁護士

京都生まれ。大阪大学文学部卒業後、大手損害保険会社に入社するも、5年で退職。大手予備校での講師職を経て、30歳を過ぎてから法律の道に進むことを決意。派遣社員やアルバイトなどさまざまな職業に就きながら勉強を続け、2008年に弁護士になる。荒木法律事務所を経て、2017年にスタッフ全員が女性であるフェリーチェ法律事務所設立。離婚・DV・慰謝料・財産分与・親権・養育費・面会交流・相続問題など、家族の事案をもっとも得意とする。なかでも、離婚は女性を中心に、年間300件、のべ3,000人の相談に乗っている。

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