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世界各国の「無資格での年金や医療給付などを要求する行為」への拒絶感をさぐる(2017~2020年分)

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 医療などは無条件で享受できる権利だとの意見もあるが。(写真:アフロ)

「資格無く要求」はよくないとの認識多数

しばしば話題に上る、無資格での年金や医療給付などを要求する行為について、世界ではどのような認識があるのだろうか。国単位の価値観を中長期的に定点観測の形で調査報告している「World Values Survey(世界価値観調査)」(※)の結果を基に、その実情を確認する。

次に示すのは「無資格での公的年金や医療給付などの要求行為」に関する回答状況。どれほど否定感を持つかを10段階で答えてもらい、国単位で平均値を算出したもの。悪くは思わないなら10、悪いことであると思うなら1とし、10段階で回答者の考えを提示してもらっている。値が低いほど「悪いことである」との認識が強い。理論上、全員が中間の意図を持っていれば、回答値平均は5.50となる。

↑ 無資格での公的年金や医療給付などの要求行為はよいことか(1(悪)~10(善)の選択肢での平均値)(2017~2020年)
↑ 無資格での公的年金や医療給付などの要求行為はよいことか(1(悪)~10(善)の選択肢での平均値)(2017~2020年)

フィリピン、メキシコ、チリなどが上位についている。これらの国は今調査別項目の「脱税」に関する設問でも許容するとの意見が多く(グラフは略)、地域・国家文化的なものとして、金銭的によく言えばおおらか、表現を変えればルーズな観念が国全体として存在しているようだ。

全般的には今回対象の諸国に限れば、西洋諸国で低め、新興諸国で高めの値が出ている。文化的な価値観の違いが出ていると考えれば納得も行く。日本はといえば1.76で、「悪いことである」との判断が大勢を占めている。また、いわゆる移民問題でトラブルを抱えているドイツ、ギリシャ、オランダ、イギリスでとりわけ低い値が出ているのは、それを起因とする無資格要求への憤りが、このような結果を導いている可能性は十分考えられる。

日本は特に厳しい「バスや電車の料金のごまかし」

無資格による公的サービスなどの要求行為と比べれば金額は小さく、またハードルも低い事案ではあるが、似たような状況として「公共交通機関の料金をごまかす」がある。いわゆる無賃乗車、料金支払い時における支払い手続きをしない上での改札突破などがよい例。こちらもおおよそ「無資格での公的年金や医療給付などの要求行為」と同じ結果が出でいる。

↑ 公共交通機関の料金をごまかすのはよいことか(1(悪)~10(善)の選択肢での平均値)(2017~2020年)
↑ 公共交通機関の料金をごまかすのはよいことか(1(悪)~10(善)の選択肢での平均値)(2017~2020年)

寛容の度合いがもっとも大きいのはロシア、次いでフィリピン。この2国が他から群を抜いている状態。メキシコが続き、この3か国が御三家的な状態。今設問での上位国は、直上での「無資格での公的年金や医療給付などの要求行為」の上位国とさほど変わりない。

日本は今設問ではもっとも数字が低い、つまり厳粛に「悪いこと」との認識が多数を占めている。交通システムそのものがきっちりと料金の支払いを求める仕組みとして構築されているのも一因だが、同時に国民性的な部分もあるのだろう。ちなみに内部的な話だが、「1」、つまり「絶対に許されない悪業である」と答えた人は日本では84.6%に達しており、もちろん今回取り上げた諸国の中ではトップとなっている。ちなみにロシアでは21.9%でしかない。

日本国憲法には国民の義務として「教育・勤労・納税」を挙げている。「無資格での公的年金や医療給付などの要求」は、特殊事例を除けば「義務を果たさず権利を主張する」行為と受け止めることもできる。また規模は小さいものの、公共交通機関を利用してその料金を支払わないのもまた、同様の行為と考えられる(むしろ手順が逆で、権利の主張・施行をした後で義務を果たさないと見るべきか)。

このような要求が正しいことか否かは、それぞれがしっかりと認識し、はっきりと意思表示をするべきであろう。

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※World Values Survey(世界価値観調査)

世界100か国以上が参加して実施している国際的プロジェクト「世界価値観調査」によるもの。各国・地域毎に全国の18歳以上85歳以下の男女1000サンプル程度(実際には1000~2000人程度)の回収を基本とした個人対象の意識調査。調査そのものはおおよそ5年おきに実施されているが、調査期間によって一時的に対象外となる国も少なくない。また現時点では集計が完全には終わっておらず、値が掲載されていない国もある。直近の調査結果は2017年から2020年にかけて行われたものだが、記事執筆時点で項目によって調査結果が掲載されていない国が複数確認できる(最終的な報告書は2021年秋に発表予定)。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

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(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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