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「二兎を追う二刀流」・大谷翔平の挑戦はどうなるのか?

阿佐智ベースボールジャーナリスト
二刀流の完成形をメジャーで見せるのか思われた矢先に故障者リスト入りした大谷翔平(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 エンゼルスの二刀流、大谷翔平が故障者リスト入りした。

 今回の大谷の故障を、高校時代からの酷使に結び付ける論調もあるようだが、私は高校時代は関係ないと思っている。なぜならば、彼は高校時代、他のプロ入りした日本人ピッチャーの大多数と違って、それほど投げてはいないからだ。甲子園の土を初めて踏んだ2年の夏に襲ってきた成長痛のため、大谷は自分の代になった秋から翌年の春のセンバツまでまともにマウンドに立っていない。最後の夏も岩手大会決勝で敗れ甲子園出場を逃している。高校時代からそのピッチングだけでなく、3年春のセンバツでは同級生の現阪神・藤浪からホームランを放つなど打力でもプロ注目であったことは周知のことである。しかし、投打の二刀流は、ドラフト上位で指名される高校のエースピッチャーならばある種当たり前のことであり、こと高校時代については、彼に「勤続疲労」の要因は見受けられない。

 

 プロ入り後も大谷は大事に育てられた。かたくなにメジャー志向を口にする大谷を北海道日本ハムファイターズは栗山監督以下球団挙げてその育成プランをアピール、日本球界でも前例のなかった投打二刀流でのプロ生活を容認し、バックアップした。その結果については、いまさら語るまでもないだろう。彼の活躍が空前絶後のものであることは間違いない。

 しかし、「二刀流」という視点で見てみると、果たして彼は本当にそれを完成したのだろうか?

 批判を承知で辛口採点すると、大谷が日本でプレーしていた5年間、規定投球回数に達したのは2回に過ぎない。チームを優勝に導き、MVPに輝いた2016年は、大事をとってあと3イニングを残してレギュラーシーズンを終えたが、この年を入れたとしても、ローテーションの柱として活躍したのは3回だ。3年連続の2けた勝利の後、故障で3勝に終わった日本最終年を見ると「道半ば」の感をぬぐえない。

 そして、打者としては1度も規定投球打席数に到達していない。酷な言い方をすれば「準レギュラーとして素晴らしい打者」でしかないのだ。

 もちろん、投げて打っての彼を、既存の物差しで測ることには異論もあろう。しかし、投手・打者の真の二刀流とは、ともにランキング入りすることを究極の目標にするものではないのか。少なくとも私は一度でいいから、彼の名が投打ともランキングすることを期待していた。そして、それはここ数年で成し遂げられねばならないとも思っていた。常識破りの大谷の挑戦も、20代半ばまでだと考えていたからだ。この年齢を越えてしまうと、さすがに長丁場で投打両方で主力選手として活躍し続けることは難しいだろう。

 そもそも大谷という選手は、決して丈夫な選手ではない。プロ1年目の2013年は、開幕を外野で迎えるも4月半ばに早くも守備中に足首を捻挫し、登録を抹消されている。そしてMVPに輝いた2016年オフにも国際試合で足首を痛めると、翌年のWBCは辞退、このシーズンは故障続きで投打ともシーズンをほぼ棒に振り、日本では結局、二刀流の完成形を見せることはなかった。

 そして、今年、彼は誰もが懐疑的だった世界最高峰の舞台での二刀流を開花させようとしていた。彼はメジャーリーガーを圧倒するプレーで日米双方から噴出していた懐疑論を封じ込めたかに見えた。大谷は、自身のプレーのポテンシャルが投打とも世界トップレベルにあることを見せつけた。

 しかし、長丁場のプロではやはり「無事是名馬也」である。いくら高いレベルのプレーが可能でも、それをシーズン通してやらないと意味がない。メジャーリーガーに対する天文学的な報酬は、彼らが最高レベルのプレーを半年にわたってファンに魅せることに対して支払われるのだ。

 類まれな才能をもって生まれた大谷とて人間、疲れを感じないはずがない。そもそも、「エースで4番」がチームを引っ張るアマチュアと違い、プロリーグにおいて投打の分業が図られるのは、その高いレベルを維持するのに、専業しないと屈強な男たちも体がもたないからである。非常に残念だが、今回の故障者リスト入りは、大谷にとっても、エンゼルスにとっても大きな決断をする契機になるかもしれない。今季の大谷の契約はポスティングシステムの改定もあり、マイナー契約からスタートしている。しかし、来季からは球団は大型契約に踏み切るだろう。しかし、故障のリスクを背負う選手に球団は大枚をはたけない。ましてやその原因が「勤続疲労」に求められるなら、そのリスクは年齢を重ねるほど高くなる。となれば、長期契約には球団は二の足を踏んでしまう。 

 それでも、私は心のどこかでは期待している。彼が、早々に復帰し、メジャーの水にも慣れ、ここ数年の間に投手成績・打撃成績ともにランキングするその日を。恥ずかしながら、私はキャンプでの彼の様子を見て、マイナーからアメリカでのキャリアを始めた方がいいと考えていた。しかし、ふたを開ければ、大谷は、それこそ漫画の世界のヒーローのような活躍を見せてくれた。彼のその姿に、日本のファンはもちろん、全世界の野球ファンが、新しいヒーロー像を見たことは間違いない。

 大谷翔平は、メジャーでも不可能を可能にしてくれるのだろうか。

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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