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北海道日本ハムファイターズは、中田翔を再教育できるのか?

阿佐智ベースボールライター
昨年のWBCで侍ジャパンの4番を務めた中田だが、その行動はあまりにお粗末だった。(写真:田村翔/アフロスポーツ)

 呆れたを通り越してしまった。

 日本ハム、中田翔のインスタグラム騒動である。

 2月1日のキャンプインに備えた自主トレのためアメリカに到着後、現地のスーパーマーケットに買い出しに出かけたようなのだが、そこでこともあろうか買い物かごのカートに自ら乗り、その写真をアップしていたのだ。後輩の西川遥輝ら数人も一緒だったというからさらに始末が悪い。やっていることは、まるきり不良少年の集まりである。これが高校球児なら、即学校に苦情の連絡が行き、生徒指導の対象になるだろう。強豪校ならメディアも黙ってはいないはずだ。これが社会人の行動だとすれば、一流企業ならば、コンプライアンスの遵守が叫ばれている昨今、なんらかのペナルティを科されることだろう。

 高校出のルーキーではない、中田28歳、西川25歳、りっぱな大人だ。それもふたりはプロ野球チームの主力である。その行動もあまりに情けないが、それをわざわざインスタグラムに載せて世界中に発信しているのだから、もう救いようがない。大きな図体を買い物かごにすっぽり収めて後輩にカートを押させているその姿は「やから」以外のなにものでもない。

 私はかつて空港で遠征帰りの日本ハムの一行を見かけたことがある。旧知の球団スタッフに挨拶しようと探していると、目の前に中田が現れた。その風貌は威圧感満点であったが、金に染め上げたモヒカンカットを見て違和感を大いに感じたものだった。

 野球選手がどんな格好をしようが、本人の自由であるとか、野球選手の価値はそのプレーにあるという意見に異論を唱えるつもりはない。しかし、プロ野球の存在価値というものを考えれば、高給をとっている彼らには、それなりの品格が求められてしかるべきなのではないだろうか。とくに今回の行状は、迷惑行為でしかない。それをわざわざ自慢げに発信するということは、本人たちはそれを悪いことだという、小学生でもわかるはずの判断もできていないのだ。

 

 中田の素行の悪さは、これまでも散々噂されてきた。しかし、昨年はともかく、パ・リーグの強豪となった日本ハムの主砲ということから、テレビなどのマスメディアは、「見かけはああだけど、実はナイスガイ」という虚像を作ってきたように思う。中田は、自らの力でメディアに作らせたその虚像までも自ら壊したのである。

 球団は、これに対してどう対処するのだろう。このチームの監督、栗山英樹は大学で教壇に立つ教育者でもある。教育者の観点からならば、この一件を不問になどできないだろう。大学4年生ならば、就職内定取り消しという事態にもなりかねない行状である。

 彼を見ていて思うのは、これまでの人生で、いい教育を受けることができなかったのだなということである。あのような行動を臆面もなく公開できるのは、それが彼にとっての日常であったからに違いない。それが一般社会の常識とかけ離れてることを、かわいそうなことに、中田翔という男は、30歳近くになってもわからなかったのだ。彼のあまりに卓越した野球の技能が、人間形成に必要な指導を受けることを妨げてしまったのかもしれない。

 一芸に秀でたものが、その芸さえできれば、人間性や素行の悪さは問われないという時代が終わったことは、昨今の芸能人の不倫騒動が示している。プロスポーツ選手もまたしかり。相撲界のスキャンダルがこれだけ世間を賑わせている中、今回の彼の行動はあまりに軽率すぎた。日本ハム球団だけでなく、プロ野球界、さらに言えば、アマチュア球界も含めて今一度、選手の教育を見直す必要があるのではないだろうか。

 中田の情報と同時に、かつてオリックスにいたアレックス・マエストリの消息が入ってきた。昨シーズン、メキシコで満足の行く成績を残せなかった彼は、国外でのプロ生活に見切りをつけ、イタリアへ帰り、地元クラブとプロ契約を結ぶ一方、ビジネスにも携わるらしい。彼には何度も話を聞き、日本を離れてからも時折連絡を取っていたが、ユニフォームを脱げば、まったくの一般人で、教養豊かな彼は、英語、スペイン語も習得し、在日時もオフは神戸の外国人コミュニティに加わっていた。日本以外の国のプロ野球選手を見て一番感じる違いは、彼らは、野球選手である前に、まず一社会人であることを自覚していることである。むろん、若さゆえにはみ出した行動を取る選手は、洋の東西を問わずいるし、プロスポーツ選手が聖人君子である必要もない。しかし、社会人として当然の常識はわきまえてしかるべきであるし、ましてや、チームを代表する主力であるならば、より行動に責任が生じるはずである。

 

 プロ野球選手は、ヒーローである。かつてヒーローものの特撮番組の主役をつとめていたある俳優は、普段の生活においても、口にものを入れたまま公道を歩くことを慎んでいたという。

「だって、子どもたちが見ているでしょう。ヒーローたるもの、子どもの見本にならないと」

 傍若無人を見せつけることで金を稼ぐユーチューバーが子どもの憧れの職業になりつつあるこの時代だからこそ、高給を手にしているプロ野球選手にはヒーローになってもらいたい。

 それが、スポーツのチカラだと私は思うから。

ベースボールライター

これまで、190か国を訪ね歩き、22か国でプロ、あるいはプロに準ずるリーグの野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当、WBC2017年大会ぴあのガイドの各国紹介を担当した。国内野球についても、プロから独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。

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