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「夫婦二馬力で稼げばいい」と言うが…。専業主婦夫婦が減っている分だけ婚姻数が減っているという事実

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:イメージマート)

結婚できないことを金のせいにするな

この連載でも何度も取り上げている「金がないから結婚できない」系の記事を出すたびに、決まって「金がないからこそ結婚したほうがいい」という話をしてくる御仁がいる。

確かに「一人口は食えねど二人口は食える」という言葉もある通り、貧乏であればこそ、二人協力して稼ぎ、一緒に暮らすことで無駄な費用も節約できるということはある。

「年収300万円しかないから結婚できない」と考えるのではなく、「年収300万円同士でくっつけば世帯年収600万円でやっていける」という話になるわけだ。

それでなくても、現代はもはや専業主婦夫婦は減少し、大部分の夫婦は共稼ぎであるという人もいる。それを説明する際に、メディアがよく使うグラフが以下である。どこかでご覧になった方も多いだろう。

これによれば、専業主婦夫婦は全体の28%程度であり、その2倍以上が共稼ぎ夫婦ということになる。しかし、この見方は正確ではない。

なぜなら、この共稼ぎの中には、週1回1時間でもパートで働いた場合も含まれてしまうからだ。もちろん、パートも立派な労働であるが、基本的には家計の収入の助けとして補助的にやっているもので、それはフルタイムで就業している妻とは別物だと考えるべきだろう。

フルタイム就業妻の割合

実際に、パートとフルタイムで分けたグラフがある。

これをみると、フルタイム就業の妻の割合は。実は1985年から2021年にかけて、35年以上もほぼ3割で変わらない。もちろん、完全専業主婦の割合は減っているのだが、その減っている専業主婦の3割とほぼ同等である。この間に増えたのは妻パート就業夫婦だけなのである。昨今女性の就業率が増えているという話が出るが、それは、パート就業者の増加によるものである。

念のため、フルタイムは割合だけではなく、実数もほぼ不変である。

別の見方をすれば、皆婚時代だった1980年代も3割の夫婦は妻がフルタイムで働く夫婦であったことを意味する。また、現在婚姻数が激減しているが、それでもフルタイムで働く妻の割合は3割で一定なのだ。奇しくも、いつの時代も「恋愛強者3割」という法則に似ている。

婚姻数が減っているのは、お見合いや職場結婚などのお膳立て婚の減少である(参照→日本の結婚は30年前にはすでに詰んでいた。失われた社会的システム)のだが、婚姻数がどれだけ減っていても、お膳立てに頼らず、自分で相手を見つけ恋愛して結婚できる自力婚の数はそれほど減少していない。

それと同様に、結婚してもフルタイムで働く女性の割合もまたいつも3割で不動であり、恋愛でも仕事でも能動的に行動できる人間の割合とも符合する。

専業主婦と婚姻の相関

しかし、それ以上に気になるのは、専業主婦の数の減少と婚姻数の減少とが完全に一致していることである(相関係数0.9720)。グラフで見ると一目瞭然である。

グラフでは妻の初婚数で示している。だからといってこれに因果があるとは言わないが、興味深い相関である。

夫婦ともに個人年収300万円でも二人あわせれば世帯年収600万円となり、十分に結婚生活を送れるという声もあるが、そんなものは机上の空論であって現実には即さない。

誰もがバリバリと仕事を続けたい人ばかりではない。仕事より育児を優先したい人もいる。「会社の仕事なんて誰がやってもいい仕事。うちの子にとって親は自分たちだけ。子どもと過ごすかけがえのない時間を削ってまでやりたい仕事なんてない」と考える人もいる。人それぞれだ。

実際、2015年国勢調査ベースでは、0歳児をもつ母親は、以前より少なくなったとはいえ61%が専業主婦になっている(育休なども含む)。

写真:アフロ

つまり、恋愛から結婚するまでは、個人年収300万円同士の「二馬力で世帯600万円」のカップルは成立するが、いざ結婚後の妊娠出産子育てへの移行にあたって、夫の一馬力にならざるを得ない場合も多いのだ。

だからこそ、望むと望まないとにかかわらず、多くの子育て夫婦の年収構造は、結果として妻側の経済力上方婚(妻の年収より夫の年収が高い状態)になっているのである。

これは是非の問題ではなく、現実の話である。

専業主婦夫婦が減っている分だけ婚姻数が減っているという事実も、「一馬力でもある程度の年収が確保されなければ結婚できない」という「金がないから結婚できない」問題なのである。

結婚が減る理由

そういう現実をふまえるからこそ、婚活女性は、300万円の男など見向きもせず、「年収は500万円以上、どんなに妥協しても400万円以上」という条件の中で相手を見つけようとするわけだが、結局実際に全国で400万円以上稼いでいるアラサー未婚男性はたったの3割しかいない。よって、熱心に婚活しても、いつまでも「相手がいない」と愚痴るだけになるのだ。

一方、年収300万円の男は透明化され、その存在すら認知されない。実際に25-29歳で300万未満が約半数もいるのに、それらが全部いないことになっているのだから、そら婚活現場に「男がいない」となるのは当然なのだ。

「金がないから結婚できない」をモテない男の言い訳だと切り捨てる界隈がいるが、「金がないから結婚できない」は社会環境の問題であり、個人だけの問題ではない。ちなみに、断っておくが「金があれば結婚できる」とは一言も言っていない。

提供:イメージマート

専業主婦を目の仇にして叩く界隈があるのだが、夫婦が互いの合意の上で決めた役割分担を外野が口出しするものではない。

ちなみに、本記事であえて「共稼ぎ」という言葉を使っているが、すべての夫婦は「共働き」であるからである。仕事で金を稼いでいなくても、夫婦は「共に働いている」のである。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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