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10年で日本撤退の米フォーエバー21 韓国系移民が一代で築いた栄光と衰退

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
Forever21のタイムズスクエア店は、引き続き営業中。(写真:REX/アフロ)

10月24日、米老舗デパート「ノードストローム」が、ニューヨーク市内初となる店舗をマンハッタンのミッドタウン地区に華々しくオープンした。

一方、同じ老舗デパートでも「ヘンリベンデル」や「ロードアンドテイラー」など、今年閉店や店舗縮小に追い込まれた店も多い。最近では「バーニーズ」の経営破綻も発表された。EC事業の繁栄や不動産価格の高騰で、リテール業は栄枯衰退が激しい昨今。

米ファストファッションブランド「フォーエバー21」もそうだ。先月29日経営破綻し、世界40ヵ国から撤退を表明。全体の30%にあたる199店舗をクローズすると発表された。

2009年に進出した日本の直営店も、10月末に国内全14店とECサイトが閉鎖される。

同ブランドはファストファッションの中でも価格の点で群を抜いている。競合他社よりさらなる低価格を実現することで「1回きりの使い捨て衣料」の代名詞となり、「それほど質を問わないが、お出かけやパーティーでいつも新しい服を着たい」とするアメリカの若者には人気だ。ニューヨーク市内ではタイムズスクエアやユニオンスクエアなど、世界中から観光客や若者が集まる一等地に店を構えている。

しかし「薄っぺらでヨレヨレ」「すぐにダメになる」衣料は日本の若者には不評で、日本の市場とは相性が合わなかったようだ。これまで最大24店舗があったが、16年を境に店舗数は減る一方だった。衰退し、勢いのないチェーン店というイメージだけが残ってしまった。

韓国系移民が築いたアメリカンドリーム

フォーエバー21はロサンゼルスに本社を構えるアメリカの企業で、アメリカ国内でもリテール業界やファッション業界に身を置いていない限りあまり知られていないことだが、創業したのは韓国系アメリカ人夫妻の、ドウォン・チャン(Do Won Chang)氏とジンスーク・チャン(Jin Sook Chang)氏。

ドウォン・チャン氏は1981年に韓国からアメリカに移民した。同社を創業したのは、移住からたったの3年後というのに驚く。ゼロから数十億ドル規模のビジネスを構築するなど、アメリカンドリームを一代で築き上げた人物だ。2人の娘をアイビーリーグの大学に入れ、卒業後には会社のエグゼクティブとして迎え入れるなど、両脇を固めた。

出典:New York Times
出典:New York Times

創業者のドウォン氏と、経営を支える2人の娘。リンダ氏はエグゼクティブ・バイスプレジデント、エスター氏は流通部門のバイスプレジデント(2010年撮影)。

つまり家族経営ということなのだが、ほかにも韓国系アメリカ人夫婦が経営に加わっている。プレジデントおよび元サプライヤーのアレックス・オク(Alex Ok)氏と、妻でマーチャンダイズ担当のソーニョン・キム(SeongEun Kim)氏で、この夫婦は何万店舗の出店に尽力したとされている。しかし株式の所有はチャン氏が99%で、オク氏の所有はわずか1%なので、フォーエバー21は実質「チャン帝国」そのものだろう。

同社はピーク時、年間売上高40億ドル(約4340億円)以上をもたらし、世界中の何百を超える店舗で4万3,000人以上の雇用を創出した。

飛ぶ鳥落とす勢いだった世界のフォーエバー21。どこに経営破綻の落とし穴があったのだろう?

家族経営が破綻の仇(あだ)となった

10月23日付け『ニューヨークタイムズ』紙は、衰退の原因を「チャン氏の狭い視野や凝り固まったマネージメントのやり方が崩壊に導いた」と報じた。

参照記事:

『One Family Built Forever 21, and Fueled Its Collapse』(フォーエバー21 家族経営が破綻の仇(あだ)となった)

マネージメントの専門家である、ミシガン大学ロス・スクール・オブ・ビジネスのエリック・ゴードン教授は、「独断でビジネスを進めるのは、創業者として決して珍しいことではない」としながらも、同社には取締役会もなく、エクイティ・アナリストもいなかったことを指摘し、「自分で築き上げたバブルに乗ることはできるが、そのバブルはいずれ弾ける。よって長期の成功には致命的」と、同紙に語った。

同紙は、匿名で3人の役員を含む6人の元従業員の声も拾っている。元従業員は、「ライバル他社と違い、非上場の上、決算や売り上げが非公表のため、企業を成長させるための機会を失った」と、同社の徹底した情報の閉鎖性について指摘した。

元従業員の証言から見えてきた「チャン帝国」の内側

経営破綻後も、その内情はあまり明かされていないが、元従業員から聞こえてきた「情報の閉鎖性」はこちら。

  • 本社ビルの最上階はチャン氏の世界そのもので、ここで企業戦略が練られていた。企業秘密を守るよう、従業員に通達していた。階下は妻ジンスーク氏のオフィスで、訪れたバイヤーやプランナーなどは、ビルの出口で手荷物検査があったほど、情報漏洩に慎重だった。
  • 事業拡大に伴い、チャン氏は経験豊富な幹部を雇いたいとしながらも、部外者への不信感を同時に募らせていた。そしてやっと出会えた専門家がビジネスの見直しのために導入しようとした新テクノロジーからマーケティングまで、最後になってアイデアをひっくり返し、聞く耳を持たなかった。
  • マーケティング担当者は2014年、歌手のアリアナ・グランデ氏を広告塔として使いたかったが、経営陣に却下された。(ちなみに、アリアナ氏は自身のミュージックビデオの衣装やヘアスタイルが、フォーエバー21の広告で似たものを使われ著作権を侵害されたとし、今年、訴訟問題にまで発展している)
  • 今年に入るとチャン氏自らが、従業員が使った経費、昼食代、ウーバー乗車代などを細かくチェックするようになった。

最大の過ちは不動産問題

同紙は、フォーエバー21の最大の過ちは「不動産」(店の場所や出店計画に関する戦略)とした。

大型店舗を展開することはチャン氏の長年の夢だったようで、10年前の金融危機の時期でさえも、同社は積極的に店舗数を拡大し、ボーダーズ、シアーズ、サックスなどが撤退した大型の空きスペースに、長期リースを結んで大型旗艦店を次々にオープンしていった。中には2028年までリース契約を結んでいる店舗もあるという。

「フォーエバー21の問題はモール自体ではなく、(売り上げが落ち込んでいる)店舗をモールから早期に撤退しなかったことが原因」と、マネージメントの専門家は指摘する。

リテールのトレンドが、郊外のモールの実店舗からeコマースへ移行していく中で、モールへの出店は500を超え、チャン氏はさぞや誇らしかっただろう。業績の悪い店舗を畳むことを嫌い、同じモール内の別の空き店舗スペースに移動するなどで対処した。

さらに世界展開を目論んだチャン氏は、2005年の時点で7店舗だった海外店舗を10年間で262店舗にまで拡大することに成功した。しかし、ここにもチャン氏の「世界企業のリーダー」にあるまじき、脇の甘さが窺える。

元従業員の証言では、ほとんど現地事情を調べることもなく、世界展開を進めたようだ。例えばヨーロッパの顧客は冬物衣料をアメリカより早めに購入したり、ドイツでは日曜日にほとんどの店舗が閉まることなど、現地事情を研究もせぬまま闇雲に海外展開していった。こんなことだから、おそらく日本の若い女性のファッション嗜好もほとんど知らなかったのだろう。どうりで日本の店舗はいつも閑散としたイメージだった。日本撤退も時間の問題だったのだろう。

企業再建に向け新たな風が吹くか?

しかしながら、ニューヨークの一等地をはじめ、700店近くの実店舗とオンラインストアがまだ営業している。今後、それらは縮小する可能性が高いが、フルタイムの従業員6,400人とパートの従業員2万6,400人がここで働いている。

一代でここまでの世界企業にまでした成功者のチャン氏であるから、このまま黙って引き下がることはないだろう。同ブランドは経営破綻後も、再建に向け多額の資金を調達した。また、取締役会はCEOのチャン氏、娘のリンダ氏、オク氏の3人に加え、新たに同社の不動産部門の元責任者、弁護士、モール「シングス・リメンバード」の元最高経営責任者を含む6人に増やしたそうだ。

企業再建に向け、本国アメリカで新たな風を吹かせることになるか?

(Text by Kasumi Abe) 無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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